アスベストによる健康被害を受けた人々が国や企業に損害賠償を求めた訴訟で、2021年(令和3年)5月17日、最高裁判所は国と企業の責任を認める判決を下しました。
この判決は、アスベスト訴訟の最高裁判決としては初めて国と企業の責任を認めたものであり、アスベスト被害者にとって大きな勝利となりました。
この判決を受け、アスベストの危険性を改めて思いしり、今後のアスベストの管理や対策方法を考えている人も多いのではないでしょうか。
本記事では、この最高裁判決の概要や理由、また今後の展望について解説しますので、ぜひ参考にしてください。
アスベスト訴訟の概要
アスベストの訴訟内容をわかりやすく解説します。
アスベストとは?
アスベストは、天然に産出する繊維状の鉱物で、日本では白石綿(クリソタイル)と茶石綿(アモサイト)、青石綿(クロシドライト)が主に使用されてきました。
アスベストは、耐熱性、断熱性、耐久性、耐摩耗性に優れていることから、建材の他にもさまざまな製品に使用されてきました。しかし、アスベストの繊維は非常に細く、吸入すると肺や中皮に付着し、長年の潜伏期間を経て、肺がん、中皮腫、石綿肺などの健康被害を引き起こす可能性があります。
そのため、日本では1975年にアスベストの使用が規制され、2006年に製造・輸入が禁止されました。しかし、現在でも、アスベストが使用された建物や製品が残っており、アスベストによる健康被害が懸念されています。
アスベスト訴訟とは?
アスベスト訴訟とは、アスベストの危険性を知りながら、アスベスト含有建材の製造・販売を続けたメーカーや、アスベストの使用を規制しなかった国に対し、アスベストによる健康被害を受けた人やその遺族が損害賠償を求める裁判です。
日本では、1970年代からアスベストによる健康被害が問題視されるようになり、1975年にアスベストの使用が規制されました。しかし、アスベストの危険性が完全に認識されたのは1990年代以降です。
アスベスト訴訟は、2000年代以降、全国各地で相次いで提起されました。2021年5月には、最高裁判所が建設アスベスト訴訟において、国とメーカーの責任を一部認める判決を下し、アスベスト被害者の救済に大きな前進をもたらしました。
アスベスト訴訟には、大きく分けて2つの種類があります。
⚫︎建設アスベスト訴訟
建設アスベスト訴訟は、建設現場でアスベスト含有建材を直接扱ったり、飛散するアスベスト粉じんを吸入したりして、健康被害を受けた建設労働者とその遺族が、国とメーカーに対し損害賠償を求める裁判です。
⚫︎工場アスベスト訴訟
工場アスベスト訴訟は、アスベスト工場で働いていた人や近隣住民が、国とメーカーに対し損害賠償を求める裁判です。
最高裁判所の判決を受け、アスベスト訴訟はさらに広がりを見せると予想されます。アスベストによる健康被害は、長期間にわたって発症する可能性があるため、アスベスト被害者の救済は、今後も重要な課題となるでしょう。
最高裁判決のポイント
最高裁での判決の対象となったポイントを解説します。
国と企業の責任が認められた
2021年5月17日、最高裁判所は建設アスベスト訴訟において、国とメーカーの責任を一部認める判決を下しました。
判決では、国は、アスベストの危険性を認識しながら、1975年から1995年にかけて、アスベストの使用を規制しなかったことにより、アスベストによる健康被害を防止する義務を怠ったとして、賠償責任を認めました。
また、メーカーは、アスベストの危険性を認識しながら、アスベスト含有建材の製造・販売を続けたことにより、アスベストによる健康被害を発生させ、拡大させたとして、賠償責任を一部認めました。
この判決は、アスベスト被害者の救済に大きな前進をもたらしました。アスベストによる健康被害は、長期間にわたって発症する可能性があるため、国と企業の責任が認められたことにより、アスベスト被害者の早期救済が期待されます。
賠償額は各訴訟で判断される
国とメーカーの責任が一部認められたことで、アスベスト被害者への賠償金の支払いが始まっています。しかし、賠償額は、各訴訟で個別に判断されるため、一律ではありません。
賠償額の算定には、以下の要素が考慮されます。
⚫︎被害者の被った健康被害の程度
⚫︎被害者の労働歴や生活状況
⚫︎国やメーカーの責任の程度
そのため、同じ病気であっても、被害者の状況によって賠償額が大きく異なる場合があります。
また、賠償額の算定には、裁判所の判断が大きく影響します。そのため、同じ訴訟でも、裁判官によって賠償額が異なる場合もあります。
今後の展望
アスベスト対策への国や企業の今後の展望について解説します。
国や企業はアスベスト対策を強化する必要がある
国や企業は、アスベスト対策を強化するにあたり、以下の対策を考えています。
国は、アスベスト対策の実施主体として、アスベスト対策の基本方針の策定、アスベスト対策の実施に関する支援、アスベスト被害者の救済などの役割を果たす必要があります。
企業は、アスベスト含有製品の製造・販売の禁止や、アスベスト作業の安全対策の徹底など、自らの責任においてアスベスト対策を実施する必要があります。
アスベスト対策の強化により、アスベストによる健康被害を未然に防止し、被害者の救済につなげることが重要です。
アスベスト被害者への支援が求められる
アスベストによる健康被害は、長期間にわたって発症する可能性があるため、早期発見・早期治療が重要です。しかし、アスベスト被害者の中には自覚症状がない人も多く、適切な治療を受けられないケースも少なくありません。
国は、アスベスト被害者の早期発見・早期治療を支援するために、以下の施策を実施しています。
⚫︎アスベスト健康被害者健康診査事業
⚫︎アスベスト健康被害者給付金事業
アスベスト被害者への支援を充実させることで、被害者の早期発見・早期治療を促し、健康被害の拡大防止につなげることが重要です。
まとめ
2021年5月、最高裁判所は、建設アスベスト訴訟において、国とメーカーの責任を一部認める判決を下しました。この判決は、アスベスト被害者の救済に大きな前進をもたらし、今後のアスベスト訴訟にも大きな影響を与えると考えられます。
最高裁判決を受け、アスベスト訴訟はさらに広がりを見せると予想されます。アスベストによる健康被害は、長期間にわたって発症する可能性があるため、アスベスト被害者の救済は、今後も重要な課題となるでしょう。
国や企業は、アスベスト訴訟への対応を適切に行うとともに、アスベスト被害者への支援を充実させ、アスベスト対策を強化していくことが求められます。
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